入社した会社の研修がヤバかった件 最終日
昨日と同じように7時起床…のはずだった。
「起きろ!緊急事態だ!!起きろーーー!!」
教官の声が廊下にこだまする。
重いまぶたをこじ開け時計を見ると時刻はまだ5時。
予定より2時間も早い。
わけもわからないまま体育館に集められた。
どうやら早朝に地震が発生し、水不足となった場所まで歩いて物資を運ばないとならないようだ(という設定)。
班ごとに出発し、水のタンクを目的地まで届けて最終的には出発地点に帰ってくる。
そのコースはおよそ5キロ。
途中には各教官が待ち構えており、社訓を叫ぶミッションなどをクリアして先に進んでいく。
また、歩く間行進の時のように1.2 1.2と足を合わせなければならない。
昨日までの研修を総動員した過酷なメニューである。
そして何よりシビアなのがここでも女性陣である。
朝起きてそのまま飛び出してきた為、ほぼほぼノーメイクなのだ。
昨日絆の深まったはずの女性班員は全く違う顔になっており、初対面のような感覚になった。
「誰こいつ?」
と思いながらもゴールを目指してひたすら歩く。
昨日の二の舞にはならない。
班員を置いていくことはなく、9人全員で一緒に行動する。
班員が置いてけぼりにならないよう班長の私は最後尾から班全員を鼓舞する。
遅れそうな女子がいるなら声を上げ、先頭にスピードを落とすよう呼びかける。
もちろん水のタンクは私が持つ。
思い出すのは大学時代、ボート部で最後尾のバウというポジションにいてクルーに指示を出していた頃。
レースのスパートのタイミングや航路の調整、そしてクルーの士気を上げる為の激励。
あの時の全てがここで活かされた。
我々の班は昨日の完敗が嘘のように先にスタートした班を追い抜き、気付けば約20チーム中、2位のところまで上がってきていた。
トップの班が見えてから一気にスパートをかける。
「ラストスパートいこう!さぁいこう!!」
ここまで来たら負けるわけにはいかない。
昨日匍匐前進で涙を飲んだグラウンドの外周をほぼ走りながらデッドヒートを繰り広げる。
競った末、我々二つの班はほぼ同時にゴールラインを通過した。
そこで待ち受けていた鬼教官が各班の女性班員を一人ずつ捕まえ、声をかける。
「よし、お前ら倒れろ。さあ緊急事態だ。適切な処置をして班員の窮地を救え。」
……!!
なんという無茶振り。
やるしかねぇ!
ここで班長松坂は覚醒する。
まずは倒れた女性の肩を叩きながら声をかけ、意識の有無を確認。
どうやら意識は無い(設定)のようだ。
仕方あるまい。
胸骨圧迫を試みる。
「お前はAEDを、お前は救急車を呼んできてくれ。」
役割が混同しないよう一人一人に指示を送る。
そして女性の班員には胸骨圧迫の指示を送る。
「お前は胸骨圧迫を頼む。1分間に100回のペースで胸の中央辺りをリズム良く押してくれ。服が邪魔なら仕方なくハサミで切ろう。」
倒れた彼女に配慮して残りの者は囲んでブラインドになるように指示。
「よし、それで良い。胸骨圧迫の次は人工呼吸だ。まず顎を上げ、気道を確保して…」
「そこまでだ。もう十分わかった」
鬼教官の一言で二つの班の全員が動きを止める。
「お前たちがNo.1だ。」
鬼教官は私を指差し、長かったレースは終了した。
私たちは優勝したのだ。
集中していて気づかなかったが、隣の班は慌ててあまり動けていなかったようだ。
どうやら私達の班があまりにもキビキビと動く為、余計に焦ったらしい。
なにはともあれ昨日の匍匐前進の完敗からうってかわって、我々は優勝という形でこの合宿を締め括ることができた。
鬼教官の言葉の一言一句が胸に突き刺さる。
「教官は嬉しい!お前たちは最高のチームだ!」
関西関東、会社、職種、男女、性格、体力。
全て異なる9人の班員だったが、この戦いを通して確かな絆が生まれた。
変わり者ばっかりだったが、いざという時は付いてきてくれる良い仲間だ。
研修を通して得たのは社訓を大きな声で言うことでも、匍匐前進の技術でも無く、友情だったのかもしれない。
絶対また会おう。
そう約束して怒涛の合宿研修は終幕となった。
研修を終えて約3週間後、ゴールデンウィークに集まろうと言う話が出たが「金が無い」というシンプルな理由で流れ、今グループLINEを見返すと既に抜けてる者もいたし、正直あんまり名前も覚えていない。
結局あれから会うことは一切無かったね!🤣🤣🤣
というかそもそも班長のわしが会社辞めとるがな!😂😂😂
この研修で学んだこと。
その場のテンションでした約束は叶わない。
あと、
教官の一人称はやっぱり「教官」。
完。