風紀委員長 最後のスピーチ
今日は珍しく全体的に自画自賛の内容になる。
松坂のことが生理的に無理な人はこの時点で読むのを止めることを勧める。
以前にも軽く触れたが、私は中学時代生徒会役員の風紀委員長だった。
風紀委員とはそもそも何をする委員会かと言うと、主な仕事は服装の乱れている生徒を注意することである。
具体的には
①毎朝交代で校門の前に並び、登校してくる生徒に「おはようございます。名札出してくださーい」と声をかける。
②風紀チェック表なるものが各クラスに配布されていて、朝の会の時に名札を忘れた者やボタンの閉まっていない者などがいないかをチェックする。
の二つである。
文字にするとまあなんとも言い難い地味な仕事だ。
そもそも所詮中学の委員会だからそこまで熱意を持って務めていた者はいないだろうし、委員長だった私自身その仕事自体に大した重みは感じていなかったのが事実だ。
ただ毎月ある風紀委員会はそこそこ思い入れがある。
各クラスの風紀委員が一堂に会し、今月の目標を話し合う。
私は自ら手書きのレジュメを用意し、司会を務める。
さほど難しいことをしていたわけではないが、それでも司会をするということ自体にやりがいを感じ、楽しんでいた。
特に最後の風紀委員会は印象深い。
我ながら人生で一番上手く喋れた瞬間だったように思う。
生徒会役員の任期が終わる3年の2学期末。
各委員長はこの1年を振り返り、まとめのスピーチを数分間行うのが通例だった。
会の進行具合によるので細かい時間はあまり覚えていないが、私の場合は多分10分程度だっただろうか。
私の喋り出しはこうだ。
「風紀委員は無くなればいいと思います。」
一瞬の静寂。
存分に味わって話を続ける。
詳細はもちろん覚えていないが、この話で私が言いたかったことをまとめると
風紀委員なんてものは放送委員などと違い、風紀が乱れている者がいるから存在している。
もし全校生徒が服装やら学校生活の態度やらが正しいものであればそもそも風紀委員は必要ない。
だから風紀委員の最終目標は風紀委員を無くすことだ。
といった感じだ。
前日寝る前に言いたいことを頭の中でまとめて(確か特にメモとかも用意していなかった気がする)後は言葉がスラスラと頭の中から出てきた。
そこで「もしかしてオレってそこそこ信念持って風紀委員長やってたん?」と自覚した。
私が話している最中、普段は雑談していることも多い各クラスの風紀委員たちが食い入るようにこちらを向いていた。
その感覚は今まで感じたことのないような快感だった。
人からの注目を浴びるだけでなく、自分の伝えたいことを上手く言葉という媒体を通して伝えられた時、こんなに気持ちが良いものなのか。
そう思うとどんどん自分もノッて来て、いわゆる「ゾーン」に近いような状態になっていた。
そして何より周りのリアクションを見ることが出来るほどの余裕すらも持っていたことに自ら驚いた。
話し合えた後の風紀委員たちから送られた拍手に鳥肌が立った。
会が終わってから教室の後ろで聞いていた先生方からもお褒めの言葉を頂いた。
「お前こんなん誰に添削してもらったんやー?」と担任から冗談まじりに聞かれた(もちろんしてもらってない)。
ちょっとヤンチャな同級生からも「あれはめちゃくちゃかっこよかった」と後日言われた(ヤンキーから真面目なとこで褒められると余計嬉しい)。
そして最も驚いたのが、次期生徒会役員を決める選挙演説。
次期風紀委員長候補の一個下の後輩くんが全校生徒を前に
「風紀委員は要らないと思います。これは前風紀委員長松坂さんの言葉です」
と私の言葉を引用したのだ!!
体育館で三角座りして聞いていた松坂、戸惑いながらも思わず小さくガッツポーズ!
さらに驚きなのはこの後輩くんはその前の学期は風紀委員では無かったということだ。
つまり直接私のスピーチを聞いていたわけではない。
しかし彼の担任の先生は風紀委員の担当で私の最後のスピーチの時に後ろで聞いていて、
選挙演説の原稿は担任と推敲していくのが決まりのため、
恐らく先生から私の言葉を又聞きして引用していたのだ。
わしの言葉、めっちゃ広まるやんんんん(昇天)
彼は見事当選した。
私の言葉を使ったんだ、当然だ。
例のスピーチにおいて
「風紀委員は無くなればいい」
というキャッチーな見出しから入れば皆が初めに興味を持ってくれるんじゃないか。
イメージは『バトル・ロワイアル』のビートたけしの「今からちょっと殺し合いをしてもらいます」だった。
他にも色々例えを入れてみたり、皆と同じ生徒だからこその視点で共感出来るなにかを言えたら…と
自分なりに伝えようと工夫したところが全て噛み合って上手くいったことが何より嬉しかった。
あれから10年ほど時が流れたが、未だにあの時のスピーチを超えるパフォーマンスを出せていない。
今も私のベストトーキングが風紀委員長 最後のスピーチなのだ。
あの日の感動が、私を今いる世界に導く原動力になったのは間違いない。
根底にあるものは変わらない。
あの感覚をもう一度と言わず、何度も味わう為にこの世界で生きていきたい。