ツッコミの天才
ボケとツッコミは既にお笑いの世界から飛び出してもう一般化していて、日常的に「ツッコミキャラ」といったような使われ方をしている。
私の周りにも純然たるツッコミキャラのM君という友達がいた。
確か中学2年生の夏頃だったと思う。
バスケ部だった私たちは毎日練習に精を出していた。
その日の練習で重視したのは「トランジション」。
トランジションとは攻撃と守備の切り替えのこと。
ディフェンスからオフェンスに移り変わった時にトランジションを早く行うことで、守りの準備が出来ていない敵陣に速攻を仕掛けることが出来る。
敵がシュートを撃ってそれが外れ、跳ね返ったボールをとることをリバウンドというが、こういった時にトランジションの速さが求められる。
うちの学校では味方がリバウンドをとった際に
大声で
「取った!!!」
と叫ぶ、という練習をしていた。
ゴール下は常に混み合っていて周りから見えにくい状況にあることも多いが、
声で味方にアピールすることによって、外側にいた味方を一気に走らせる狙いがある。
その日の練習では体育館のあらゆる所から
「取った!」「取った!!」
という声がこだましていた。
キツかった練習を終え、いつも通りの4.5人で家路に着く。
もちろんその中にM君もいた。
すると突然いたずら好きなS君がM君の肩掛けのエナメルバッグをひったくった!
そこでS君の一言
「取った!」
すかさずツッコむM君
「いやとったの字違うやろ!」
あまりの衝撃に私は膝から崩れ落ちた。
M君はS君の行為は、
「取った」はなく、「盗った」だろと言ってのけたのだ。
凡人ならこんな突然こんなシチュエーションに置かれた時に
「おい、やめろや」や「なんでそんなことすんねん」くらいしかセリフは出てこないだろう。
M君はツッコミのレベルが違う。
瞬時に漢字に変換した上で納得してしまうアカデミックな言い回し。
齢14にしてこの完成度。凄まじい天賦の才。
もはや畏怖の念すら抱くほど、彼の語彙力と瞬発力は圧倒的だった。
今になっても鮮明に覚えてるほど感服した出来事だった。
誰よりも頭のトランジションが早かったのはM君だったのだ。